名を知られている。かえって日本においてより外国での方が名声は嘖々《さくさく》としている。進取|邁進《まいしん》した彼女のあとにつづいたものは一人もない。もうその間《あいだ》は十幾年になるが、一人として彼女の塁《るい》を摩《ま》したものはないではないか。それは誰れでも自信はあるであろう。貞奴に負けるものかとの自負はあっても、他から見るとそうは許されぬ。それは彼女の技芸そのものよりは度胸が、容姿が、どんな大都会へ出ても、大劇場へ行っても悪びれさせないだけの資格をそなえている。貞奴のあの魅惑のある艶冶《えんや》な微笑《ほほえ》みとあの嫋々《じょうじょう》たる悩ましさと、あの楚々《そそ》たる可憐《かれん》な風姿とは、いまのところ他の女優の、誰れ一人が及びもつかない魅力《チャーム》と風趣とをもっている。彼の地の劇界で、この極東の、たった一人しかなかった最初の女優に、梨花《りか》の雨に悩んだような風情《ふぜい》を見|出《いだ》して、どんなに驚異の眼を見張ったであろう。彼女のその手嫋《たおや》かな、いかにも手嫋女《たおやめ》といった風情が、すっかり彼地の人の心を囚《とら》えてしまった。あの強い意志の
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