金魚の目玉のやうに、灸のあとのフクレたのを見て悲しみあつた。ホテつて痛むこともあつた。ことにあたしはそれがひどかつた。兩方の人差指の根《ね》もと、足の中指の根もと、おへそ[#「おへそ」に傍点]の兩ワキのは動くので燒けあとが大きかつた。背中は八ツ目鰻の目《め》のやうだといはれた。
 父はよく悲《かな》しがつて女の人たちに言つてゐた。
「肩《かた》だけへはすゑてくれるな。洋服を着たときに困る」
 それ、また、洋服なんて――お父さんが惡いと叱られてゐた。
        ×
 震災のとしであつた。あたしの體はグツと惡く、心も身もクタクタだつた。ある雜誌社の方から親切にお灸をすすめられた。それは肩である。手の甲の眞ん中である。あたしは吐息をついた。父の悲《かな》しがつた言葉を思ひだしたから。
 しかし、灸點師は火をクツツケてしまつた。その後《のち》、小さい女中がすゑてくれることになつたが、十六の小娘のすゑるお灸がバカに熱くてこらへられなかつた。ジリジリと焦げる樣子がをかしいので氣をつけると、それはわざとぢかに火をあててゐるのだつた。お灸をつけておくれといふと大きく丸めて火をつけて、わざと背中を
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