無《なさ》は堪兼《たえかね》て夜着に顏差入て忍なき、兼が進る藥に息をついて兼やもう御言《おいゝ》で無よ、此樣な病になつた爲父樣と姉樣の御仲も丸く美敷《うつくしく》すんだのは、家の爲によろこんでいるは私、靜夫樣は肺病だからとて死と定《きま》つているではなしと、言はつて下すつた物の先樣でもお一人子御兩親の御不服《ごふふく》なのは、あたり前だわね、ちいつともうらむ事は無ねえ兼、よし折枝《をりえ》さんがゆかぬにした所がどうでよそからおもらひ遊ばすのだ物、御姉樣の御望《おのぞみ》をかなへた方がねそうであらふだが今朝も父樣が悲想《かなしそふ》なお顏を遊ばして、私しや自分の慾はあきらめているがせつ角父樣もゆるして下すつて、だが父樣はどうして靜夫樣と御知りなすつたのだろふ、兼《かね》知《しつ》て居て、知ている所か私柄と、いやまて思は思を生《うん》で心經の高ぶつて居今、先《まづ》何事も胸にと、ほんに承はれば兼がわるう御座升だが孃樣御結婚はなさらず共御心に替り無《なく》ば、お嬉しう御座ませう靜夫樣も決て貴女をおわすれは、これ覺《おぼえ》がお有でせうと取出す手箱の内|香《にほ》わせし白ばら一輪、中に深《み》
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