あつた、急《いそい》で御頼申升よ御藥取に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]らねばとかけ行に、女房も無言で塵除《ちりよけ》はづして金紋の車念入に拂、あづかりの前掛てうちん取揃《とりそろ》えれば亭主の仕度も出來ぬ、今迄は無沙汰したのが面目無《めんもくない》何と御見舞言た物《もの》やらと、獨言引出したとたんがら/\と淺草の市歸《いちかへり》か勢よく五六臺、前後して通ぬけぬ。
風は寒《さむい》が好天氣淺草の觀音の市も大當《おほあたり》、川蒸汽の汽笛もたえずひゞく、年の暮近し世間は何と無《なく》ざわめきて今日はいぬの日、明日はねの日とりの日、扨も嫁入ざたの多事《おゝいこと》今宵本宅の嫁の妹|折枝《をりえ》とて廿を一越た此間迄寄宿舍|養《そだ》ち、早くから姉夫婦に引取れて居たので、本家の娘として此處の孫としての嫁入、進まぬながら是も義理と、ひる前に隱居も古銅《こどう》の花瓶と、二幅對の箱と合乘でゆかれた跡《あと》入替《いりかはり》に、昨日花屋から來た松の枝小僧が取にくる、御上《おうへ》の分《ぶん》下《した》の分とわけた御膳籠《ごぜんかご》もは入附添の手代より目録もそれ/\行渡り役目すめば
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