つば》もは入《いる》時分秋頃から御隱居樣のはさみの音も聞えず、どうかなされた事かと拾八九の赤ら顏紫めりんすと黒の片側帶氣にしつゝめづら敷《しく》車《くるま》頼《たのみ》に來たお三をつかまえて口も八町手も八町走るさすが車屋の女房の立咄《たちばなし》、どうして/\御庭いぢり所か御本宅にては御取込で御目出度けれど、此方樣《こちらさま》では秋からかけて孃樣の御病氣、御隱居樣の御心配それは/\實に御氣《おき》の毒でならぬ、今年は菊も好《よく》出來たけれど御客も遊ばさぬ位、御茶《おちや》の會御道具の會、隨分|忙敷時《せはしいとき》なれどまるで、火が消たやう、私らも樂すぎて勿體無早く全快《おなをり》遊《あそ》ばすやうにと祈つては居《をる》けれ共、段々御やつれなされてと常にも似ず凋《しほ》るゝに、それは/\知ぬ事とて御見舞もせなむだがさぞまあ旦那樣《だんなさま》は御心配、御可哀想に早く御全快おさせもふし度《たい》、そして又御本宅の御取込とは御噂の有た奧樣の御妹子が御方附になるの、彼宅《あちら》は御目出度事さぞ此宅の旦那樣もどんなにか御うらやま敷《しい》だろふねとの同情、ほむに御隱居樣も御出掛遊ばすので
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