は頑固《かたくな》なほどだつた。ことに友達は目立ない澁いつくりを好んだ。流行や周圍に負ける人ではなかつた。吟味のゆき屆くたちだつた。西洋のお婆さんになつたとしても、好《この》みのよいことに異《ちが》ひはない筈だ――
 と思つてゐると、すこし痩せたかと思ふが、あの、ありあまる髮をキユツと〆《しめ》て、無造作に卷いた、色の白い顏が笑つた。胸もともキチンとした縞の着附けで、例によつて灰拔《あくぬ》けのした瀟洒な彼女だ。この間、讀賣新聞の文藝欄が傳へた、日本劇の衣裳や監督をしたといふ時の、他の人と竝んで寫つてゐた、寫眞とちつとも違はなかつた。
 私はパリで逢《あ》つてゐるといふ事なんぞは素《す》つとばしてしまつて、勝手にいつたものだ。
「甘いものそんなに好きぢやないの知つてるんだけれど、果實《くだもの》は送らなくつたつてあるだらうし――」
 私はくすくすと笑ひだしてしまつた。友達は蜜柑があんまり好きで膽石を患《わづ》らつたことがあつたのだ。ずつと前にも急病だといふので澁谷の家へ急いでいつたら、矢つ張り蜜柑の食べすぎだつた。私が行くと、寢臺の下《した》へ、あわてて蜜柑の皮が山のやうになつてゐるお
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