かないではゐなかつた。彼女のおつくりは濃厚で、可憐といふよりは意識的に魅惑をもつてゐた。その娘が店に出てゐることが多い。こんなことは、男店の多いどつしりした店藏つづきの家には見られないことだつた。その上、夕暮かたになると、彼女たちの一隊は、堅氣な家の家族には見られない身のこなしで、うつくしい年増の母人もついて、女たちばかりで日蓮さまへ日參しにゆくのだつた。
 これは散歩と見ればなんでもないのだが、店の主人でも店用でないときには、新道の裏木戸から見立たぬやうに出歩くのが習慣の近所は、びつくりさせられたのだつた。彼女たちはまたさうして錢湯にゆくこともあるが、新道をゆかずに通り町《ちやう》を歩いた。しかもそれが、各戸の暖簾をはづす暮あひなので、番頭も若主人も、暖簾をはづす時間には、みな店さきへ立つて終日の息をぬいてゐる時分なので、そこへ目新しい華やかな刺戟をうけるのだから、その噂は見る見る擴がつてしまつた。桃色鹿の子の結綿島田の大柄すぎるほどの娘は、實質より人氣で、すばらしい小町娘になつてしまつた。
 その娘が、小船町《こぶなちやう》のたしか砂糖問屋の資産家へ嫁入りすることになつた。その評判
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