確かに私どもで仕立てましたもの」
右門が、
T「註文主ァ誰じゃ」
伊吉が帳面を繰って、
T「八丁堀の村上様」
右門が、
T「村上?」
表で聞いて居た敬四郎と松公。
それさえ聞けばとそろそろ歩き出す。
T「村上……と聞いた事のある名前ですが」
ウンと敬四郎。
T「村上ケーシロー」
T「村上敬四郎?」
T「馬鹿」
と敬四郎今気がついた。
T「わしじゃ、わしの名前じゃ」
で、引き返す。
20=店
伝六も思い出して大笑いです。
T「あば敬にも村上ッて歴とした苗字があるんですね」
其処へ敬四郎が現れた。
T「身共買った覚えはないぞ」
伊吉がいいえ、
T「村上様のお内儀様で御座います」
「なんじゃ家内が?」
と敬四郎、慌てた。
右門が、
T「早速貴殿の奥方様にお目に掛りましょう」
敬四郎が驚いて、
「いいや」
T「身共の家内は身共が調べる」
右門が、
「では」
T「拙者もお立合致します」
と言われては敬四郎も、
「勝手にさッしゃい」という他なし。
(F・O)
21=(F・I)敬四郎宅内部
敬四郎、妻お兼を調べて居る。敬四郎が例の羽織をお兼に突きつけて、
T「誰に断ってこんなものを買ったのじゃ」
やいのやいのとせめられてお兼オロオロ泣き出した。泣かんでもよい。
T「誰に呉れてやったのじゃ誰にッ」
お兼泣いて返事もしない。
T「何とか申さんか」
お兼が、
T「喋ると罰が当ります」
「罰が当る?」
どうも敬四郎には合点がゆかぬ。
T「強情な奴出て行けッ!」
T「離縁じゃッ」
まーと今迄泣いていたお兼さん怒った。
シツレーなこの人はッ、
T「私のヘソクリで私が買ったのが何故悪いのです」
形勢が逆転して来た。右門と伝六の微苦笑。
お兼、
T「誰に差し上げようと私の勝手ですッ」
敬四郎タジタジです。
「そ、そう怒るな」
「いいえ怒ります」
とお兼。
T「出て行けと仰しゃれば出て行きます」
たッた今出て行きます。で立ち上って次の室へ行く。
敬四郎が心配して、
「コレコレ怒るな」
で後を追う。
22=隣室
お兼、敬四郎のとめるのもきかず箪笥から着物を出します。
右門と伝六そッと覗いて見ると、
敬四郎、お兼の前にペコペコ頭を下げて、
「ワシが言い過ぎた。謝る、謝る」
ダラシない事此の上無い。
右門伝六をうながして立ち上る。
23=玄関
其処の土間に提灯が掛かって居るのにふと目を止めた。提灯には深川船宿|於加田《オカダ》と書いてある。右門、松公に、
「あの提灯は?」
と訊く。
T「お内儀さんが借りて来たんです」
提灯の大写。
(F・O)
24=(F・I)舟宿於加田の表(夜)
入口の行燈からO・Lして
25=内部の座敷
生島屋太郎左衛門と例の寺へ逃げ込んだ浪人乾浪之助が密談して居る。
太郎左衛門が、
T「其処をうまく頼む」
「よしッ」
と浪之助。
T「その代りお類の事を頼んだぞ」
心得たと太郎左衛門。
26=同表附近
附近に右門と伝六近附く。
27=表
舟宿のお内儀に送られて来た太郎左衛門が浪之助に、
T「では明日の晩」
「頼んだぞ」
と言い残して去る。見送って浪之助、お内儀に、
T「船頭どもは大丈夫だろうな」
お内儀が意味あり気に笑った。
T「人の喋ると罰が当ると言って居りますよ」
と言う。和尚其処の河岸から舟に乗り込む。
物陰から現れた右門と伝六舟を見送る。
伝六が此の間の奴は、
T「あの侍ですよ旦那」
右門お内儀を呼びとめて、
十手を示して、
T「明日の晩どうかしたんですか」
お内儀「いいえ」
T「其処のお寺で結構なお説教が御座います」
と言ってお内儀は家の中へ――
伝六、右門に、
T「あのお寺ですよ旦那」
と言う。
(F・O)
28=(F・I)例の生島屋附近
伊吉とお類のラブシーン。
T「そのお寺へ」
お類が言った。
T「夜更けてこッそりお詣りすると」
T「必ッと願いが叶うんですッて」
「そんな馬鹿な事」
伊吉は信じない。
T「いいえ本当よ」
とお類は真剣。ねえ、
T「今夜お詣りしない事」
伊吉は気が進まなかったけれど仕方なく承知する。
お類が、
T「今の話、人に喋ると罰が当るのよ」
と言った。
(F・O)
29=(F・I)例の茶店で
おふみさんが伝六に話して居る。
T「そのお寺へ」
矢張り例の寺の話です。
T「あたし今夜お詣りするの」
「お前がッ」
おふみ、
T「兄さんとお類さんが是非一緒に来いッて言うんだもの」
伝六が――
T「
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