近寄ってその人垣の中から悲鳴が聞える。
T「お助け――」
T「人殺し――」
 おふみ心配で走って来た。敬四郎ものこのこ戻って来た。
 おふみ敬四郎に、
T「助けて上げてッ」
 敬四郎ニヤッとして、
T「ワシの言う事きいて呉れるか?」
 えッとおふみ、
T「どんな事?」
T「どんな事てそりゃお前」
 と敬四郎。
 その時――
 人垣が崩れて侍が一人フラフラにされて逃げて来る。続いて二人三人四人。後から向う鉢巻の伝六が大威張りです。
 おふみ喜んだ。
T「伝六さんよー」
 おふみ、
T「大丈夫?」
 伝六が、
T「心配すんねえこの伝六のうしろには」
T「右門の旦那が控えてなさらァ」
 その右門、結城左久馬を曳きずって現れた。左久馬散々な目にあって逃げて行く。
 大喜びのおふみ、ふと思い出して伝六に、
T「土左衛門は」
 伝六がアッ、
T「其奴忘れてた」
 で慌てて走り去る。
 (敬四郎のギャグを考える事)

11=橋の上
 仕出し二三人欄干から下を見て居る。川端に土左衛門が置かれてある。検視の捕方と仕出し若干、死体を取り巻いて立って居る。其処へ伝六走って来た。

12=茶店
 おふみと右門が待って居ます。
 伝六帰って来たおふみに、
T「土左衛門は船頭だったよ」
 と言う。右門が微笑んで、
T「河童の川流れか」
T「へッ」
 と伝六。右門が、
T「水の上でおまんま喰ってる船頭が」
T「違いねえ」
 と伝六。
T「船頭が水に溺れる筈がねえ」
 右門無言で立ち上る。
 傍でこれを聞いて居た敬四郎が又乾分の松と共に走り去る。
                  (F・O)

13=(F・I)以前の橋の処
 土左衛門を調べる右門主従と敬四郎。
 右門が、
T「絞め殺されたのだ」
 「えッ」と敬四郎吃驚する。
 人垣の背後で死体を覗き込んで居た一人の船頭がある。死体を一目見て、
 「アッ」
 と叫んだ。
T「罰が当ったんだ」
 その声に右門船頭を見る。船頭急ぎ去る。
 右門が伝六に、逃がすな、と言う。
 敬四郎も慌てて立ち上る。船頭、自分の舟に乗ろうとして居る。「伝六待てッ」と走って来た敬四郎伝六を突きのける。松公舟に飛び乗る。敬四郎続いて飛び乗ろうとして川へ落ちる。松公慌てて手を差し出す。その手を敬四郎掴んだ。
 松公も又ドブーン。船頭舟を出す。伝六慌てて「待てッ」船頭の舟逃げる。
 右門伝六に命じて別の舟で追っ掛ける。
 逃げる舟を追う右門の舟追っ掛け若干あって、

14=別の橋の附近
 伝六やいのやいの。
T「待てと言ったら待たねえか」
 逃げる船頭が、
T「人に喋るとあの男の様になります」
T「罰が当ります、罰が」
 その舟が橋の下へ来た時、
 橋の上の欄干に凭れた深編笠の侍が居る。
 その侍の足許の大きな石。
 船頭の舟がその真下を通る。
 侍が石を蹴落す。追って来た舟の上の右門「アッ」と叫んだ。船頭が顔中血だらけになってブッ倒れた。
 橋の上を――逃げる深編笠の侍。
 右門、伝六に追えと命じ、己れは船頭の舟に飛び乗る。川端を逃げる深編笠の侍。
 伝六舟を岸へ着けて川端を追う――
 右門船頭を抱き起した。船頭が断末魔。
T「罰が当ッたんです、罰が」
 と言った。
 川岸――
 逃げる深編笠を追う伝六。
 敬四郎と松公、裸で着物を乾して居る。

15=川端の寺のある処
 深編笠の侍は其処の土塀を飛び越えて姿を消す。伝六チラと其の姿を見て、続いて寺院の中へ忍び込む。

16=墓場
 伝六探し廻る。編笠が其処に落ちて居る。二三間離れて例の侍の着て居た羽織が落ちて居る。

17=本堂
 伝六本堂へ忍び込む。和尚が本堂の中央に黙然と坐して居る。伝六「もしッ」と声を掛けたが和尚返事もしないで黙祷を続けている。伝六少し怒って「オイッ御用だ」と叫ぶ。
 和尚ジロリと伝六をにらんだ。
 伝六十手を示して、
T「少しお訊ねしたい事があるんですがね」
 和尚が、
T「寺社奉行様への手続を踏んで参られたか」
 伝六返答に困った。
 和尚ニコッともせずその儘読経を続ける。伝六取りつく島も無い。
 その手には編笠と羽織。
                  (F・O)
18=(F・I)右門宅
 編笠と羽織を調べる右門。羽織の袂の裏を返すと隅に白糸三筋縫い込んである。右門伝六にそれを示して、
T「この羽織は生島屋の仕立だ」
 と言って、
T「あそこで縫った品ァこの通り」
T「袂の裏に白糸を三筋縫い込んである」
 成る程と伝六感心した。
                  (F・O)
19=(F・I)生島屋の店先
 表で敬四郎と松公が様子を窺っている。
 店先では右門と伝六が例の羽織を見せて、主人太郎左衛門や手代の伊吉に訊ねている。
 主人の太郎左衛門が、
T「
前へ 次へ
全8ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山中 貞雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング