お詣りして何をお願いするんだい?」
 おふみが「あのね」
T「どうぞ私の願いが叶いますようにッて」
 アレッレッ、
 と伝六驚いて、
 さてはおふみちゃん、
T「誰かに惚れたね」
 「知らないわ」
 伝六が、
 「ハテ誰かな」
T「誰に惚れたんだい」
 「知らないッ」
 おふみちゃん、ちょいと赧い顔して立ち上る。
 伝六が、
T「誰だい? 言って呉れよう」
 おふみ知らないったらと逃げ出して、
T「あてて御覧」
 伝六考えて、
 「アッ解った」
T「えッ」
 とおふみ。
T「解ったよ」
 おふみ、
T「誰? 言って御覧」
 伝六へへと笑って、言えるもんか。
 おふみ、
T「言って御覧よう」
 伝六が、
T「あてて見ろ」
 落し咄です。
 やがて、帰るぜと伝六立ち去ろうとする。
 「アッ待って」とおふみ、
T「さっきのお寺の話ね」
 ふんと伝六。
 おふみが、
T「あれひとに喋ると罰が当ることよ」
 「えー?」と伝六。
                  (F・O)

30=(F・I)右門宅
 右門の前で伝六が、
T「人に喋ると罰が当るそうで御座んすがね」
 とすっかり喋って了った。
 右門考えていたが、
T「暮れる迄に寺社奉行様の手続を頼んだぞ」
 「それじゃ旦那」
 右門堅く決する処がある。
                  (F・O)

31=(F・I)夜の通り
 お類と伊吉とそれにおふみが例の於加田の提灯持ってお詣りに行きます。おふみが、
T「兄さん、お詣りするのに何故舟宿へ行くの?」
 お類が、
T「目立つと悪いから舟で行くんですって」
 おふみ変に思った。その手に提灯。
                  (O・L)

32=敬四郎の家表
 お兼さんが矢っ張り提灯持ってお詣りに出掛けます。敬四郎が頭巾で顔を隠してそっと尾行します。とその亦背後から覆面の侍が尾行します。(右門です)
                  (F・O)

33=(F・I)河
 舟宿於加田の舟に乗り込んだのは、お類伊吉におふみとお兼その他、男女十人ばかり。
 おふみは辺りを見廻して伊吉に、
T「何だか変ね」
 と言って居る。お兼はジロジロ伊吉を見ている。河岸を舟につないで敬四郎が行く。その後から悠然と覆面の右門。舟は岸へ着く。坊主が二三出迎えに来て居る。
 敬四郎は寺の裏手へ廻ります。右門も亦後に続く。

34=門前
 坊主の案内で門内に入る善男善女達――

35=裏口
 小門から覆面の立派な侍や隠居風の町人が、続々と入って行く。敬四郎その中に交って入って行く。右門も亦それに続く。

36=本堂
 集まった男女。和尚が立派な風体で悠然と現れます。読経が始まる。

37=裏手
 坊主が縁側に控えて居る。側の三宝に貼紙がしてある。

 拝観料[#「拝観料」は罫で囲む]

 侍達はそれに小判を置いて室へ入る。
 敬四郎も紙入れを逆さにして拝観料を払う。右門も亦。

38=本堂
 和尚の読経、木魚の音。

39=秘密の廊下
 敬四郎其処から階段を上って二階へ上る。

40=二階の密室
 十人分程の膳部が並べてある。
 通された一同其処へ着座する。酒もあれば魚もある。わけの解らん敬四郎キョロキョロして居ます。覆面の侍の中に例の結城左久馬も居ます。

41=本堂
 読経を終った和尚が一同に、
T「では御婦人方は室へ退って御待ち下さい」
 と言って、
T「貴女がたの心に想う殿方がやがて」
T「貴女がたの眼の前に現れておいでになります」
 と小坊主に案内を命ず。で、お類やお兼や他に女三人立ち上って坊主の案内で去ろうとする。処が、おふみは其の方へ行こうとせず、ふいと立上るや、
T「妾帰ります」
 と来た。和尚、
 「何故帰りなさる?」
 おふみ、
T「だって妾の心に想ってる人は此処に居ないんですもの」
 と言った。和尚が
T「此処には居なくとも御仏の御力を借りて拙僧が」
T「必ッとその御方を貴女の眼の前へ御連れします」
 おふみ、
 「馬鹿々々しい」
T「お生憎さま、妾の想ってる御方ァね、和尚さん」
T「仏さまが鯱立ちして力んだって、こんなケチなお寺へは来っこないの」
 と云い捨てて、廊下へ出ようとする。和尚とめて、
T「貴女は奇蹟を信じませんか」
 傍からお類が、
T「嘘か本当か行って見なければ判らないわ」
 と云う。
 おふみちゃんも仕方が無いから他の女達と一緒に室に行く。

42=密室
 右門が前の御膳をソッと動かすと、床に四五寸程の穴があけてある。

43=下はおふみの室
 おふみが坊主に案内されて入って来た。
 勿論四畳半の感じです。傍にある鏡に右門の顔が映る。
 驚いておふみ上を仰ぐ。
 右門小柄を抜いて投げてやる。
 おふみその小柄を握りしめた。
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