44=お類の室
此処も(屏風その他凝って下さい)
勿論四畳半の感じです。お類待っています。
45=お兼の室
お兼さん、室の隅の鏡を取り出して御化粧に余念が無い。
46=本堂
和尚が今度は男達に、
T「拙僧が今、御教え致しました室に」
と云って、
T「貴女の想う御婦人が、貴下の来るのを待って居られます」
T「御仏が御許しなされたのです」
T「勇敢に御進みなさい」
47=門前
伝六の率いる捕方の一隊ひしひしと詰めかけた。
48=例のお類の室
人の気配にお類固くなる。襖を開いて現れたのが和尚である。驚くお類。
49=お兼の室
襖を開いて現われた伊吉、お兼を見て驚く。お兼は大満足です。
50=おふみの室
覆面の侍(太郎左衛門)が襖を開いて入って来る。おふみそっと小柄を隠して、
T「遅いよ色男」
「えっ」
と驚く太郎左衛門。
おふみが、
T「あたしのいい人、今現れてもう消えちゃったわ」
と言って、
T「仏さまもまんざら嘘はつかないものね」
太郎左衛門一寸出鼻をくじかれた態。
51=二階の密室
「ではそろそろ」と一同御膳を横へ押しやると其処に穴がある。
其処から覗くのである。
敬四郎その通りやり出す。右門その間に立ち上って去る。
敬四郎下を見ると、
52=お類の室
和尚お類を口説いて居ります。
T「仏様が御決めなされたのじゃ」
と云って、
T「拒むと罰が当りますぞ、罰が」
と様々の手練手管を用いて居ります。
53=密室
二階の敬四郎センセイ、
「此奴は面白い」
と大喜び。
54=玄関
右門下りて来て門前に待たせてある伝六に合図する。
55=密室
敬四郎今度は右門の去った後を覗くと、
56=おふみの室
おふみに挑みかかる覆面の太郎左衛門、小柄で額を切られてアッとのけぞる。おふみ、室中の物を太郎左衛門に投げつける。
57=密室
敬四郎この大活劇にすっかり有頂天で悦にいる。隣の奴に、
T「此処が面白う御座るぞ」
T「では交代致そう」
で今度は隣を覗く。そこは、
58=お兼の室
お兼が盛んに伊吉を口説く。
T「拒むと罰が当りますぞ」
59=二階
敬四郎お兼とは知らずに大喜びで見て居ます。
処が、お兼が此方を向いた。敬四郎、
「アレッ」
と驚く。
「家内じゃ、女房じゃ」
で慌て出した。
T「不義者ッ」
60=下の室
お類と伊吉、その声にキョロキョロと辺りを見廻す。
敬四郎尚も大声で、
T「離縁じゃ、今日限り離縁する」
下ではウロウロして居ります。その時
61=玄関
雪崩れ込む捕方の一隊、寺中は大混乱の巷と化します。
結局、
結城左久馬と坊主の浪之助とお類、覆面の太郎左衛門、おふみ等は到々逃げてしまう。馬鹿を見たのは敬四郎夫婦です。
ふん捕まって「違う俺だ俺だ」
と叫んで居る。
伊吉は逃げて行く浪之助とお類の姿を見て後を追う。
(F・O)
62=(F・I)舟宿於加田の表――
浪之助に連れられたお類が逃げ込む。追って来た伊吉続いて入ろうとして、お内儀にとめられた。
T「お類さんがッ」
「来ている筈だ」
「そんな御方は来て居りません」
「いま見たんだ」
T「早く帰らぬと御主人様が心配なさる」
とお内儀を押しのけて入る。
63=内部
一室の襖がガラリと開くと室の中には浪人浪之助。宿の着物を借りて坐って居る伊吉が、
「お前さんは?」
浪之助が、
「今の寺の和尚様さ」
伊吉ふと室の隅にぬいであるお類の着物を見て、
T「お類さんを何処へ隠したんだ」
浪之助が「冗談言うねえ」
T「隠しゃしねえよ」
風呂へ入ってらァ、
と云う。
伊吉
T「お類さんを返して呉れ」
「返す? 馬鹿な事」
と浪之助。
T「あれァ俺の女房さ」
伊吉次ぎの室に入ろうとする。浪之助引戻して蹴倒しさんざんな目に会わす。其処へ風呂上りのお類入って来て、
「おや何うしたのさ」
「お、お類さん」と伊吉。
T「この青二才がお前を返して呉れとよ」
お類がフンと冷笑する。伊吉呆然。
T「嫌な奴ね」
と、お類浪之助にしなだれ掛かる。伊吉怒って立ち上る。又蹴られた。
64=表
伊吉蹴り出された。無念の涙で立ち上り、とぼとぼと帰る。窓格子の障子が開いてお類が呼び止めた。冷笑を浮べ乍ら、
T「いいお湯が沸いてるよ」
T「一風呂浴びてお帰りよ色男」
伊吉口惜し涙。笑うお類と浪之助。
(F・O)
65=(F・I)生島屋
まだ戸が閉って居る。朝です。取り乱した姿の伊吉が帰って来る。入口の戸を開けようとすると、主人の太郎左衛門が首を出す。
伊吉ハッとなる。
(額に傷を
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