して居る)
 太郎左衛門、
 「伊吉でないか」
 伊吉恨めしそうに太郎左衛門を見る。
 太郎左衛門が、
T「お類が昨夜から帰らぬが……」
T「お前何処かへ連れて行ったな」
 伊吉、
 「そんな馬鹿な事」
 いいやと太郎左衛門、
T「怒りはしないよ」
T「お前の女だ好きな処へ連れて行きなさい」
 違うんです、伊吉が云えば、
 太郎左衛門は、
T「その代り約束だから」
 「えッ」
 と伊吉が驚くも道理。
 太郎左衛門が、
T「お前の妹のおふみさんは私が貰うよ」
 伊吉が、
 「いいえ」
T「お類さんは勝手に逃げたんです。私は知りません」
 太郎左衛門、
 「そんな事わしは知らぬ」
T「おふみさんを返して欲しくばお類を連れて帰って下され」
 伊吉、
T「連れて帰ります」
T「きっと連れて帰ります」
 と言い捨てて走り去る。見送って太郎左衛門が意味ありげに笑います。
                  (F・O)

66=(F・I)街道
 旅の夫婦と云う恰好で、乾浪之助とお類が行きます。浪之助がお類に、
T「馬鹿を見たのは伊吉の奴さ」
 と言えばお類も、
T「きっと追ッ掛けて来るわ」
 浪之助が笑って、
T「思う壺さ」
 お類も笑う。
                  (F・O)

67=(F・I)街道
 急ぎ足に行く伊吉。往来の旅人の女連れと見れば、先へ廻ってその顔を見て歩く。眼はもう血走って居る。
                  (F・O)

68=(F・I)茶店
 生島屋太郎左衛門がおふみを口説いて居る。
T「お前の兄さんはお類を連れて逃げて了った」
T「約束通り今日からお前さんに私の処へ来て貰います」
 「そんな事」とおふみ拒む。
 しかし、太郎左衛門、
T「兄さんが承知したんだから」
 これこれ駕籠屋さんと、駕籠の用意までしてあるのだ。
 おふみ
 「嫌です」
 と頑張る。
 太郎左衛門が、
T「お前さんも昨夜あの寺へ行ったんだろう」
 ハッとするおふみ。
 太郎左衛門、
T「お上では昨夜逃げた者をきつい御詮議」
T「わしが奉行所へ訴人すれば」
T「伊吉もお前さんも後ろへ手が廻るぜ」
 その時、
T「ついでにお前さんもなァ」
 と云う声に振り返ると右門と伝六です。
 「何を仰しゃいます」
 伝六が傍から、
T「此の女をどうしようと言うんだ」
 太郎左衛門が、
 「放っといて下され」
T「此の女の兄と、ちゃんと約束がしてあります」
 間違いないなと右門。太郎左衛門が、
T「私は生れつき物覚えのよい方で」
T「一度聞いた約束は滅多に忘れません」
 右門が、
T「ところがこの俺も」
T「生れッつきやけに物覚えがいい方でなァ」
 「一度見た面ァ滅多に忘れねえッ」
 「おッ大将」
T「お前の額のその傷ァ何だい?」
 「えッ」となる太郎左衛門。
 逃げんとする腕を捻じ伏せて右門は、
 おふみに、
T「おふみさんこの面をよッく御覧なせえ」
 おふみ不審そうにその顔を見る。

69=昨夜の
 覆面の侍は太郎左衛門ではないか。
 アッ、
 と驚くおふみ。
 右門が、
T「最初から皆共謀だったんだ」
 と言う。
                  (F・O)

70=(F・I)番所
 漸く釈放されたお兼と敬四郎は迎えに来た松公と共に帰る。お兼はオカンムリジャジャ曲りだ。
T「あなたがボンヤリして居るからこんな恥を掻くのです」
 敬四郎済まん済まんと謝ってる。
 お兼がポンポン叱りとばす。
T「愚図々々してないで早くあの坊主を捕えていらっしゃい」
 「しかし何処に居るのか分らんじゃ無いか」
 「馬鹿ねえこの人は」
 とお兼。
T「甲州街道へ女を連れて逃げたんです」
 敬四郎喜んだ。
T「右門はまだその事を知るまいね」
 「何言ってんのさ、あの人はもうとッくに出発しましたよ」
 それは大変と敬四郎と松公慌てて走り去る。
 「本当に仕方が無いね」
 とお兼が見送った。
                  (F・O)

71=(F・I)街道
 右門と伝六とおふみ呑気そうに旅に出た。
 道傍に小供が五六人集まって何か悪戯をして居る。何んでしょうと伝六覗きに行こうとするのを右門はそのまま先に行く。
 「一寸待って下さいよ」
 伝六覗き込んでワーと叫んで逃げ出した。
 小供は蛇をオモチャにして居たんです。
                  (F・O)

72=(F・I)街道
 敬四郎と松公が行く。
                  (F・O)

73=(F・I)結城左久馬邸内
 左久馬が十人ばかりの若侍を呼んで、
T「昨夜の事、お上に知れては身共の首が危ない」
 と言って、
T「右門を殺して呉れ。頼む」
                  (F・O
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