74=(F・I)街道
 右門暗殺十人組が道を急ぐ。
                  (F・O)

75=(F・I)宿の一室
 お類と浪之助今着いたばかり。
 お類が
T「兄さんから金が来る迄当分此処で逗留ね」
 浪之助風呂へ行くべく立ち上って、
T「その間に伊吉の奴を片付け無くちゃ」
 と言い乍ら廊下へ出る。

76=廊下
 ばッたり出会った浪人客は昔馴染みの村井庄兵衛です。
 ようようと言う事になって彼の部屋に行くと昔の仲間が四人居る。
T「久し振りだなァ」
 と坐り込む浪之助。
 「時に」
T「御身たち江戸へ行くのか」
 「いかにも」
 「そうか、それなら実はな」
T「頼み度い事があるんだ」
 と話し出す。
                  (F・O)

77=(F・I)宿の表
 朝、二階の手すりから浪之助とお類が見送る。
 五人の浪人者去って行く。
 浪之助はお類に、
T「これで伊吉の方は大丈夫だ」
 と言う。
                  (F・O)

78=(F・I)街道の茶店
 おふみと右門と伝六が休んで居る。
 伝六モチをむしゃむしゃ喰い乍ら話している。
 処へ駕籠で来た敬四郎と松公とは、右門を見て茶店の片隅へ隠れてそッと盗み聞く。
 伝六は右門に、
T「おふみちゃんの想ってる男ッて誰でしょうね」
 おふみ、
 「まァそんな事言ッちゃ嫌」
 伝六尚も、
T「旦那御存じですか」
 「いいや」と右門おふみを見る。
 おふみ恥ずかしい。
 伝六が、
T「あっしには解ってますよ」
 「ホホー」
T「誰だい?」
 と右門。
 伝六、
 「ヘヘン、中々言えませんよ」
 右門が、
 「誰だ、言えよ」
 伝六、
 「へ……」
T「当てて御覧なさいよ旦那」
T「誰だか言って御覧なさいよ」
 右門が、
T「当てて見ろ伝六」
 「アッ、嫌ンなっちゃうな」
 と伝六。おふみちゃん大笑い。
 蛇が餅の皿の中へニョロニョロ這い込む。
 その蛇を餅のつもりで伝六掴んで口の所へ持って行って、ワーッと放り出す。
 それが又片隅に居た敬四郎の背中にひッかかって敬四郎飛び上って逃げ出す。足踏み辷らして崖へ落ちて木へブラ下がる。
 右門等駕籠に乗って崖の上を走り去る。木に下がっている敬四郎。
T「助けて呉れ――」
T「人殺し――」
 その二尺程下は小川のせせらぎ。
 松公ジャブジャブ走って来る。
                  (F・O)

79=(F・I)街道
 右門と伝六とおふみの前に何と敬四郎が道の真中で土下座して両手をついてペコペコ頼んで居る。
T「今度の捕物にもし失ぱい致すとなれば」
T「一生家内に頭が上りません」
T「何卒武士の情を持ちまして」
T「この手柄は拙者におゆずり下さい」
 と頼み込んでいる。
                  (F・O)

80=(F・I)峠の頂上
 五人組が腰打ち掛けて待って居る。

81=遙か下から
 上がって来る伊吉。
 村井庄兵衛が「アレらしい」
 と言う。

82=下の道
 右門伝六おふみに敬四郎と松の一行が来る。おふみが前方を見て、
T「兄さんだわ」
 と言う。
 遙か遠方に伊吉。
 伝六がオーイ、
 と呼ぶが聞えない。

83=そのまた下の道を
 暗殺十人組が来る。

84=頂上
 伊吉が通り過ぎるのを呼び止めた庄兵衛が、
T「貴様伊吉と言うんだろう」
 「へッ」と伊吉。
 そうか、で庄兵衛大刀を抜く。
 「あッ」
 と驚く伊吉。

85=下の道
 伝六が旦那大変だと叫ぶ。右門それと見て走る。頂上、逃げ廻る伊吉。右門が駈け附けた時、伊吉足踏み辷らし谷川に落ちる。
 逆流――
 右門助けに走る。暗殺十人組が来る。
 右門と伝六に敬四郎と松の立廻りよろしく。
 結局、右門逆流に飛び込んだ。
 (此の辺相当興行価値をつけるつもりです)
                  (F・O)

86=(F・I)宿の一室
 お類と浪之助。
T「兄さん金を送る事を忘れたんじゃ無いかしら」
 「そんな事あるまい」と浪之助。
T「宿を間違えてんじゃ無い?」
 とお類。
T「此処だと確かに言って置いたんだ」
 と浪之助。
T「兎も角遅いなァ」
 言って居る時女中が、
T「只今江戸から飛脚が」
 二人飛び起きた。
 その儘ドカドカと階下へ下りる。

87=表
 飛脚は敬四郎の乾分松公です。下りて来た二人に「御用ッ」とばかりとび掛かる。
 夕方の宿場の混乱の中に遂に二人を捕えると、宿の二階を見上げて、敬四郎ペコペコ頭を下げて、
T「これで嬶ァに威張れます」
 浪之助とお類、上を見ると宿の二階の手摺りに右門と伝六おふみに伊吉。右門が、
T「いいお湯が沸いてますよ」
T「一風呂浴びて帰ったら何うですお二人」

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