ぱり人並の国だわいと思って、初めて一個の邦国たる自覚が起った。かく未だ目が覚めてから四十年にもならない、それまでは熟睡しておった国である。その国民にして今日の如き進歩をなしたのは、主としてこの職業教育が盛んになった結果であることは僕が断言して憚《はばか》らぬ。故に国を強くし、殊に殖産を盛んにする国是《こくぜ》の定まった以上は、職業のために――位地のためとは言わない――教育することは誰しも大いに賛成する所である。
職業教育に就いては、ここにまた最も著しき一例がある。英国の富豪モーズレーは、世界の趨勢《すうせい》を鑑《かんがみ》るに、独逸と亜米利加とは国運勃興の徴候が見えている。然るに独逸は国土に限りがあるが、亜米利加はトント限りがない。故に後来|英吉利《イギリス》の最も恐るべき敵は亜米利加であるぞ。だから一つ亜米利加の経済状態を探究して見ようというので、自腹を切って数万の金を出し、これは政府より依頼されたのではない、モーズレー自身が金を出し、英吉利の有名なる数多の人々を委員に頼み、商業、工業、農業あるいは教育と、それぞれ各自の取調事項の分担を定めて、彼らを亜米利加へ派遣して取調べさせた
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