たいといって往くようになろう。マア世の中はそんなものである。要するに一方に於て職業を軽蔑する観念が大いに除かれなければ、どれほど職業教育に力《つと》めたところで効能が薄かろう。
 以上教育を施す第一[#「第一」に白丸傍点]の目的が職業であることを述べて来たが、然るに第二[#「第二」に白丸傍点]にはまたそれと反対の目的がある。それは即ち道楽である。道楽のために教育をする、道楽のために学問をすることがある。これはちょっと聞くと耳障りだ。けれども能くこれを味《あじわ》ってみると、また頗る面白い、高尚な趣味があろうと思う。人が学問をするのもこう行きたいものだ。来月は月給が昇るだろうと、職業的勘定ずくめの学問をすると、まるで頭を押えられるようなものだ。けれども道楽に学問をすると、そういうことがない。譬えば育[#「育」に丸傍点]の字の上の子[#「子」に白丸傍点]が、何だか芳しい香気がするぞ、美味《うま》そうだ、ちょっと舐《な》めてみようと思って、段々肉[#「肉」に白丸傍点]の方へ向って来る、即ち楽《たのし》みを望んでクルリと廻って来るのであるから、これほど結構なことはない。道楽のために学問すること
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