て、色々考えたが、先ず第一に生理学が必要と思った。彼らに取って欠くべからざるものは筋肉の労働である。車を曳く姿勢にも様々あり、また駆けるときにも、足を挙げて走る奴もあり、ヒョコヒョコと走る奴もある。これを兵式体操を教うるが如く、その筋肉を使う時分に「進めッ」といったら、こういう工合に梶棒を握り、足を挙げて駆けるのだと、一々教えてやったらドウであろうか。全国幾万という車夫が、最も経済的に筋肉を使用することが出来て、労力を多大に節約し得らるるだろう、これは大切な問題である。それに就いては一通り生理学を教えねばならぬ。生理学を教えておくことは独り車夫のためばかりでない、その車に乗るところのお客さんのためにも大なる利益がある。ちょっと車夫が客の顔を見て、「アアお客さん、あなたは脳充血でもありそうな方です」とか、あるいはちょっと脈を取って見て、このお嬢さんは心臓病があるとか分る、それで挽き加減をするようになる。また生理学ばかりでない、地質学も心得ていたらよかろう。客が彼方へ廻れといえば、すると、あそこの地質は何という地層で、雨の降る時分には中々滑る岩層であるとかいうことが分る。その他気象学も教え
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