んだ。面倒だらうけど、雑誌の発送は君一人でやつてくれ給へ」
私は、佐治の顔を視守《みまも》りつづけながら、虚《うつろ》になつてゐる頭から一言一言絞り出すやうに、やつと、それだけ云ひ終つたのだ。云ひ終ると、一瞬間、佐治の赤い顔の皮膚が、目のふちと耳との部分を残して白くなつたやうに感じられた。佐治は黙つてゐた。私も黙つて彼の顔を視守りつづけた。が、到底自分の悲しみと関係のない彼なのだと思ふと、憎らしくなつて、もう何も外に云ふことはないと承知してゐながら、私は暫くの間ぢつと突つ立つたまま動かなかつた。ふと、雑誌のことが思はれて来る。今月号へ載せた、「犬に顔なめられる」と云ふ自分の小説の、後半の大事な部分が少しも書けてゐないことが思はれた。それは、四五年前の自分の、ヒドい放蕩《はうたう》な生活の中から自殺しそくなつた経験をぬきとつて、高潮《クライマックス》だけを手記と云ふ風な形式で書いたつもりであつたが、うまく行かなかつたので、その材料を書くことを期待してゐてくれた里見さんや野村などに、私は合はす顔がない気がされた。それで佐治に向つて弁解めいたことを云はうとしたが、云はうと思ふと、それが又馬
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