《むしぎら》ひで、三十近くにもなつてゐながら、一緒に路を歩いてゐてヤモリだのトカゲだのを見ると、キヤツと声を立てて、小娘のやうに人にかじりついたりして来たりする人だつた。
「えへ、えへ、いらつしやいまし……」
不意に、格子障子があけられて、奥からゴマ塩頭のツルツルと滑つこい皮膚を持つた六十あまりの童顔のぢいさんが、店へ出てきて、私の前で手をついて、屁《へ》つぴり腰《ごし》をしながらペコペコ頭をさげた。
「へえ、これはイボタの虫と申しましてな、煎《せん》じて飲みますと、たいへんに効能のあるせき[#「せき」に傍点]どめ薬でありましてな、昨年来、世間に悪い風邪が流行《はや》り出しましてからはな、よく利く薬だと申して、上方様《うへつがた》などでも沢山にお求めになる方がございましてな……」
ぢいさんは、慣れ切つた調子でべちやくちや饒舌《しやべ》り出した。聞いてゐるうちに、私は又腹が立つてならなくなつた。やつぱり、鼻風邪位にしか利かない下らない売薬だつたと、思はない訳に行かなくなつたからだ。瀕死の病人のために、下らない売薬を買ひに来て時間つぶしをした愚劣さが思はれて、ムシヤクシヤして、怒つたや
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