格子《ちやうばがうし》の間から一寸顔を出して、私の姿をジロジロ見上げた。
「へ、いらつしやいまし……」
私は赤くなつた。泣き顔をしながらあわててこの店へ飛び込んで来た自分が、顧みられたのだ。番頭から、てつきり、「ゐもり[#「ゐもり」に傍点]の黒焼」をでも買ひに来た客と、きめられてゐやしないかと思はれたのだ。私は急《せ》き込んで訊《き》いた。
「君のところに、その、イボタの虫つていふ薬がありますかね」
「へ、ございます、ございますが、どれほどさしあげませう」
あまり平凡のもののやうに、番頭に云はれて私は却《かへ》つて面喰《めんくら》つたが、買ふ段になると、どんな風な計算で買ふものか、私にはまるきり観念がなかつた。
「一寸私に見せてくれませんか……」
番頭は立つて行つて、ガラスの瓶《びん》の中に一杯つめられてある虫を私に示しながら、「これでございますが」と云つた。――それは、背中の部分がイボイボして、毳々しい緑色で彩《いろど》られた一寸五分位な、芋虫を剥製《はくせい》にしたやうなものだつた。みてゐるうちに、私は、こんな気味の悪い虫を、到底姉になぞ飲ませられるものかと思つた。姉は、虫嫌
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