て了ひさうなイヂケタ気持になつてゐるのだ。疲れてヘナヘナになつてゐる体を靠《もた》せかけるやうにして、窓のガラスに顔をぴつたりよせた。電車の震動につれて、歯と歯とがガクガク噛《か》み合せられ、寒いやうな緊張が、体全体に漲《みなぎ》つて来るのが感じられてゐたが、不意にもう姉は死んで了つてゐると云ふ風な気がして、目の中が熱くなつた。ぽつりと涙が落ちた。鼻筋をつたふ涙の、かゆいやうな感じを覚えたが、私は気恥かしくなつてそつぽを向いた。
――白い毛糸の、ボヤボヤした温かい襟巻《えりまき》に包まれながら、姉に抱かれながら、この、本郷の通りを俥《くるま》に乗つて走つてゐたことがある。小さい弟を抱きかばつてゐる、若い娘らしい姉の得意と喜びとをちやんと私は知つてゐた。知つてゐながら狡《ずる》い小さな私は、甘えて無邪気に眠つてゐるやうなふりをしてゐたのだ。姉の親友の、学習院だつたか附属だつたかの小学校へ通つてゐる、自分と同じ年位な弟さんを思ひ浮べて、明日から、姉のために、その品の好いおとなしい弟さんに出来るだけ自分を似せようと思ひながら……。十五六年も前の、そんな記憶がちらと頭に浮んで来た。――姉に、
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