った事よりも政府の大英断に向って心窃に謳歌した。勿論祖先以来戴いた君公と離るる事は人情として忍びない処だけれども、日本の存立上に考え至れば如何ともし難いと諦めた。しかし一般の士民にあってはその点には何らの智識もないから、非常な驚愕を以てこの御沙汰に対した。尤も藩籍奉還後、藩主が藩知事となられた上は、久松家はほんの或る役目を旧藩地に務めていらるるだけで藩地は既に旧来の如き領分ではなく、従って君臣の関係も既になくなっているのだが、領主がそのまま知事となっていられるので、それらの制度や事実が全く判っていなかったのである。そこで今般の廃藩置県は久しく戴いた、殿様を一朝にして失うのだと思う事から、驚いたのも無理はない。しかのみならず知事にして一度藩地を去らるる上は、如何なる人が来て、松山を治めて、如何なる虐政を施すかも知らぬという惧れもあるので、これはどこまでも知事の留任を乞いて、藩であろうが県であろうが、相替わらず、久松家の政治の下にありたいという事を希った。即ちこの廃藩と共に、知事は従来の公家達と同じく華族となって東京へ移住せらるるからである。
この知事留任の希望は終に具体的の騒動となって
前へ
次へ
全397ページ中265ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
内藤 鳴雪 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング