して慰もうと思っても、駄菓子一つもない、昼飯を喰おうと思って立場へ来ても、客を見かけて、初めて飯を炊くというような風で、待ちどおしかった。道中記を調べると随分名物も記してあるが、そんな物も一切目に入らなかった。ただ福島駅辺りにいわゆるお六櫛店を見たばかり。それから信州が尽きて美濃に入っては、気候もいよいよ春の酣《たけなわ》なる様子となって、始めて普通の人間世界に出た気がした。ここらで珍らしく、両刀を帯びた侍の二、三に逢ったが、これは尾州藩の代官の手に属する人であった。このままで行けば、江州へ入って磨針峠《すりはりとうげ》を越えて京都へ入るのであるが、前にもいった通り伊勢参宮をしたいのであるから、太田の駅から船に乗って木曾川を下って、勢州まで行くことにした。船が少しこの駅を離れた頃から、川の水勢は俄に急となり左右に聳えている岩石に触れて急湍は白雪を散らしてその響も雷の如くたけっている。そこでその舟も常のと違って首尾ともに同じ形で、極めて薄い板で幅狭く造り、それを二人の船頭が各々首尾に立ち分かれ、竹竿を巧く使って、岩石をあちらこちらと縫うように避けて舟を下すのである。私等は最初はモウ岩石に
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