武知先生の塾へ手習に行っていた時、『ちと詩も作ったらよかろう、それには幼学便覧などを見るがよい。』といわれたので、その本を父に買ってもらったが、どうも面白くないので、そのままになっていたのである。しかるに他の朋友は少しは詩も出来るから、詩の話になれば、私は沈黙しなければならぬのであった。それが口惜しいので、ある日由井と二人で城西江戸山あたりを散歩した時、由井に詩はどうして作るかと問うて、そこで絶句とか律詩とか、平仄押韻などの事を知り、それからは時々自分でも作って見た。尤も多くの初学者はまず幼学便覧などにある二字三字の熟語を上下にはめて、それで五言七言の詩を作るのであるが、私はそんな既成の語を綴り合しては自分の手柄にならぬと思い、何か一つ自分のいって見たいと思う事を、字の平仄を調べた上で、自分限りの修辞を以て作ることにした。勿論漢籍は随分読んでいたので、漢語の使用はかなり出来るけれども、詩の修辞は別段なものであるから、他の詩に熟達した人から見れば、字数だけは五言や七言にはなっていても、全く詩とはならなかったのである。でも自分だけは自惚《うぬぼれ》て満足していた。
 当時は世間の志士などが
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