った。私の父も御時服二重と銀二十枚とを頂戴した。御時服というは大きな紋の付いた綸子《りんず》の綿入で、大名等へ賜わるは三葵の紋、倍臣には唐花《からはな》という紋のついたものであった。私も父がそれを持って藩地へ帰って来た時には頗る嬉しかった。かように賜わった服は、本人が着るのみならず、願った上で、嫡子に限りその子にも着用せしむる事が出来るので、後々は私もそれが着られるから、一層嬉しかったのである。
 なおこの神奈川警衛中一つ変事があった。それは私の藩で、一人を数人で窘めることを『たかる』といって、藩士の間にも行われていたが、或る時この警衛の勤番中に新海という者が、常に同輩から憎まれていたから、遂にたかられる事になった。即ち、同列の五人ばかりが、一日新海の室へ酒樽を持込んで、強いて酒宴を開かせ、散々に飲み散らした末そこらあたりの器具を毀《こ》わしたり、棚を落したりなどして乱暴を始めた。かような場合に至っても、大概な人は多勢に不勢で敵わぬから、辛抱するのであるが、この新海というは気力もあり、かつ短気であったから遂に堪え切れず、忽ち行燈《あんどん》を吹消し、真闇にして置いて、同時に一刀の鞘を払
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