撃剣のみを修行させたが、馬は後日役柄に依って乗らねばならぬ事があるから、是非とも学ばねばならぬといって、遂に寒川へ入門する事になったのである。しかし、これが少し年齢としては遅れてもいたし、また私の脊丈が年の割にして伸びていたから、馬術の稽古場へ出て見ると、私よりも小さい少年が達者に馬を乗りこなしている、そこへ私は初めて乗るのであるから、何だか恥かしい。殊に最初はおとなしい馬へ乗せ、先輩の人に口を引いて歩かせてもらうのが、私よりも小さい少年が独《ひとり》で馬を走らせているに較べて甚だ見苦しく感じた。その内にまず独で乗ることも出来るようになったが、或る時葛岡という馬に乗った時に、急に※[#「足へん+鉋のつくり」、第3水準1−92−34]《だく》を以て駈出した。私は未だ鞍が固まらぬから非常に驚いて今にも落るかと思ったが、辛《やっ》と免れた。その危なそうなのを見て、周囲の人は随分笑ったようであった。そんな事が時々あるので、撃剣の拙いので気が進まぬように、馬術の方も気が進まず、遂に修行を怠る事になった。
これで武術は何らの成績もなく経過したが、それと反対に漢学の方は漸次と味も加わり、いよいよ進
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