歩する事になった。前にもいった由井とか錦織とか籾山とかいう朋友と経書の研究を偕《とも》にする外に、度々郊外の散歩を試みた。そこで城下の周囲にある山川または神社仏閣等は普《あまね》く歩き廻って、殆んど足跡の到らぬ所なきに至った。まず山では城下の北方にある御幸寺《みきじ》山、これは天狗が居ると言って恐れた所だったが、そんな事は意に介せず、度々山頂まで登った、山頂には大きな岩があって、その上に小さい祠が祀《まつ》ってあった。この岩には貝の殻が着いていた。けだし太古の地変で海面が凸起した遺跡であろう。尤もかかる事も奇怪の一つとし、或る季節に祭典を執行する行者が登る外は、他の者は一切足踏みせぬ事になっていた。それを迷信だといって平気で登るのが当時の漢学生等の自慢とするところであった。
 太山寺《たいさんじ》という山には経の森という魔所があって、人の入らぬ所であったが、われわれはその山頂へも登って見た。尤もこの森に対した時は少し恐かった。この太山寺と共に道後の温泉近くに石手寺《いしてじ》というのがある。これらは千年以上の建物があって、また四国八十八個所の中の霊場である。なお天山というがあって、五つ
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