尾燈
空洞《うつろ》に暗きトンネルの
壁に映りて消え行けり。
壁に映りて過ぎ行けり。
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「なに幻影《まぼろし》の後尾燈」「なに幻影《まぼろし》の戀人を」に通ず。掛ケ詞。
小出新道
ここに道路の新開せるは
直として市街に通ずるならん。
われこの新道の交路に立てど
さびしき四方《よも》の地平をきはめず
暗鬱なる日かな
天日家竝の軒に低くして
林の雜木まばらに伐られたり。
いかんぞ いかんぞ思惟をかへさん
われの叛きて行かざる道に
新しき樹木みな伐られたり。
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――郷土望景詩――
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告別
汽車は出發せんと欲し
汽罐《かま》に石炭は積まれたり。
いま遠き信號燈《しぐなる》と鐵路の向うへ
汽車は國境を越え行かんとす。
人のいかなる愛着もて
かくも機關車の火力されたる
烈しき熱情をなだめ得んや。
驛路に見送る人人よ
悲しみの底に齒がみしつつ
告別の傷みに破る勿れ。
汽車は出發せんと欲して
すさまじく蒸氣を噴き出し
裂けたる如くに吠え叫び
汽笛を鳴らし吹き鳴らせり。
動物園にて
灼きつく如く寂しさ迫り
ひと
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