り來りて園内の木立を行けば
枯葉みな地に落ち
猛獸は檻の中に憂ひ眠れり。
彼等みな忍從して
人の投げあたへる肉を食らひ
本能の蒼き瞳孔《ひとみ》に
鐵鎖のつながれたる惱みをたへたり。
暗鬱なる日かな!
わがこの園内に來れることは
彼等の動物を見るに非ず
われは心の檻に閉ぢられたる
飢餓の苦しみを忍び怒れり。
百たびも牙を鳴らして
われの欲情するものを噛みつきつつ
さびしき復讐を戰ひしかな!
いま秋の日は暮れ行かむとし
風は人氣なき小徑に散らばひ吹けど
ああ我れは尚鳥の如く
無限の寂寥をも飛ばざるべし。
中學の校庭
われの中學にありたる日は
艶めく情熱になやみたり。
怒りて書物を投げすて
ひとり校庭の草に寢ころび居しが
なにものの哀傷ぞ
はるかに彼《か》の青きを飛び去り
天日直射して 熱く帽子の庇《ひさし》に照りぬ。
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――郷土望景詩――
[#ここで字下げ終わり]
國定忠治の墓
わがこの村に來りし時
上州の蠶すでに終りて
農家みな冬の閾《しきみ》を閉したり。
太陽は埃に暗く
悽而《せいじ》たる竹藪の影
人生の貧しき慘苦を感ずるなり。
見よ 此處に無用
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