だい君。」
 と、半ば笑ひながら友が答へた。
 「そりや君。中の骨組を鉄筋にして、コンクリート建てにした家のことぢやないか。それが何うしたつてんだ。一体。」
 「ちがふ。僕はそれを聞いてるのぢやないんだ。」
 と、不平を色に現はして私が言つた。
 「それの意味なんだ。僕の聞くはね。つまり、その……。その言葉の意味……表象……イメーヂ……。つまりその、言語のメタフイヂツクな暗号。寓意《ぐうい》。その秘密。……解るね。つまりその、隠されたパズル。本当の意味なのだ。本当の意味なのだ。」
 この本当の意味と言ふ語に、私は特に力を入れて、幾度も幾度も繰返した。
 友はすつかり呆気に取られて、放心者のやうに口を開きながら、私の顔ばかり視《み》つめて居た。私はまた繰返して、幾度もしつツこく質問した。だが友は何事も答へなかつた。そして故意に話題を転じ、笑談に紛らさうと努め出した。私はムキになつて腹が立つた。人がこれほど真面目《まじめ》になつて、熱心に聞いてる重大事を、笑談に紛らすとは何の事だ。たしかに、此奴は自分で知つてるにちがひないのだ。ちやんとその秘密を知つてゐながら、私に教へまいとして、わざと薄
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