と私は思ひ切つて話しかけた。
 「その……鉄筋コンクリート……ですな。エエ……それはですな。それはつまり、どういふわけですかな。エエそのつまり言葉の意味……といふのはその、つまり形而上《けいじじよう》の意味……僕はその、哲学のことを言つてるのですが……。」
 私は妙に舌がどもつて、自分の意志を表現することが不可能だつた。自分自身には解つて居ながら、人に説明することができないのだつた。隣席の紳士は、吃驚《びつくり》したやうな表情をして、私の顔を正面から見つめて居た。私が何事をしやべつて居るのか、意味が全《まる》で解らなかつたのである。それから隣の連《つれ》を顧み、気味悪さうに目を見合せ、急にすつかり黙つてしまつた。私はテレかくしにニヤニヤ笑つた。次の停車場についた時、二人の紳士は大急ぎで席を立ち、逃げるやうにして降りて行つた。
 到頭或る日、私はたまりかねて友人の所へ出かけて行つた。部屋に入ると同時に、私はいきなり質問した。
 「鉄筋コンクリートつて、君、何のことだ。」
 友は呆気《あつけ》にとられながら、私の顔をぼんやり見詰めた。私の顔は岩礁《がんしよう》のやうに緊張して居た。
 「何
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