さく》して居た。その憑き物のやうな言葉は、いつも私の耳元で囁《ささや》いて居た。悪いことにはまた、それには強い韻律的の調子があり、一度おぼえた詩語のやうに、意地わるく忘れることができないのだ。「テツ、キン、コン」と、それは三シラブルの押韻《おういん》をし、最後に長く「クリート」と曳《ひ》くのであつた。その神秘的な意味を解かうとして、私は偏執狂のやうになつてしまつた。明らかにそれは、一つの強迫観念にちがひなかつた。私は神経衰弱病にかかつて居たのだ。
或る日、電車の中で、それを考へつめてる時、ふと隣席の人の会話を聞いた。
「そりや君。駄目《だめ》だよ。木造ではね。」
「やつぱり鉄筋コンクリートかな。」
二人づれの洋服紳士は、たしかに何所《どこ》かの技師であり、建築のことを話して居たのだ。だが私には、その他の会話は聞えなかつた。ただその単語だけが耳に入つた。「鉄筋コンクリート!」
私は跳《と》びあがるやうなショツクを感じた。さうだ。この人たちに聞いてやれ。彼等は何でも知つてるのだ。機会を逸するな。大胆にやれ。と自分の心をはげましながら
「その……ちよいと……失礼ですが……。」
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