も不調和に破れてしまった。支那人は馳《か》け廻った。鉄砲や、青竜刀《せいりゅうとう》や、朱の総《ふさ》のついた長い槍《やり》やが、重吉の周囲を取り囲んだ。
「やい。チャンチャン坊主|奴《め》!」
重吉は夢中で怒鳴った、そして門の閂《かんぬき》に双手《もろて》をかけ、総身の力を入れて引きぬいた。門の扉《とびら》は左右に開き、喚声をあげて突撃して来る味方の兵士が、そこの隙間《すきま》から遠く見えた。彼は閂を両手に握って、盲目滅法《めくらめっぽう》に振り廻した。そいつが支那人の身体《からだ》に当り、頭や腕をヘシ折るのだった。
「それ、あなた。すこし、乱暴あるネ。」
と叫びながら、可憫《かわい》そうな支那兵が逃げ腰になったところで、味方の日本兵が洪水《こうずい》のように侵入して来た。
「支那ペケ、それ、逃げろ、逃げろ、よろしい。」
こうして平壌は占領され、原田重吉は金鵄勲章《きんしくんしょう》をもらったのである。
下
戦争がすんでから、重吉は故郷に帰った。だが軍隊生活の土産《みやげ》として、酒と女の味を知った彼は、田舎の味気ない土いじりに、もはや満足することが出来なかった
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング