日清戦争異聞(原田重吉の夢)
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)日清《にっしん》戦争
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)チャンチャン坊主|奴《め》!
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ひっそり[#「ひっそり」に傍点]
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上
日清《にっしん》戦争が始まった。「支那も昔は聖賢の教ありつる国」で、孔孟《こうもう》の生れた中華であったが、今は暴逆無道の野蛮国であるから、よろしく膺懲《ようちょう》すべしという歌が流行《はや》った。月琴《げっきん》の師匠の家へ石が投げられた、明笛《みんてき》を吹く青年等は非国民として擲《なぐ》られた。改良剣舞の娘たちは、赤き襷《たすき》に鉢巻《はちまき》をして、「品川乗出す吾妻艦《あずまかん》」と唄《うた》った。そして「恨み重なるチャンチャン坊主《ぼうず》」が、至る所の絵草紙《えぞうし》店に漫画化されて描かれていた。そのチャンチャン坊主の支那兵たちは、木綿《もめん》の綿入《わたいれ》の満洲服に、支那風の木靴《きぐつ》を履《は》き、赤い珊瑚《さんご》
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