けだつた。よつてこの定本では、同君に舊稿を乞うて卷尾に附した。讀者の鑑賞に便すれば幸甚である。
※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]繪について 本書の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]繪は、すべて明治十七年に出版した世界名所圖繪から採録した。畫家が藝術意識で描いたものではなく、無智の職工が寫眞を見て、機械的に木口木版(西洋木版)に刻つたものだが、不思議に一種の新鮮な詩的情趣が縹渺してゐる。つまり當時の人人の、西洋文明に對する驚き――汽車や、ホテルや、蒸汽船や街路樹のある文明市街やに對する、子供のやうな悦びと不思議の驚き――が、エキゾチツクな詩情を刺激したことから、無意識で描いた職工版畫の中にさへも、その時代精神の浪漫感が表象されたものであらう。その點に於て此等の版畫は、あの子供の驚きと遠い背景とをもつたキリコの繪と、偶然にも精神を共通してゐる。しかしながらずつと古風で、色の褪せたロマンチツクの風景である。
見給へ。すべての版畫を通じて、空は青く透明に晴れわたり、閑雅な白い雲が浮んでゐる。それはパノラマ館の屋
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