らがつてゐる。
なんといふ傷ましい風物だらう!
どこにも首《くび》のながい花が咲いて
それがゆらゆらと動いてゐる。
考へることもない かうして暮れ方《がた》がちかづくのだらう。
戀や孤獨やの一生から
はりあひのない心像も消えてしまつて ほのかに幽靈のやうに見えるばかりだ。
どこを風見の鷄《とり》が見てゐるのか
冬の日のごろごろと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る瘠地の丘で もろこしの葉つぱが吹かれてゐる。


 厭やらしい景物

雨のふる間
眺めは白ぼけて
建物 建物 びたびたにぬれ
さみしい荒廢した田舍をみる。
そこに感情をくさらして
かれらは馬のやうにくらしてゐた。

私は家の壁をめぐり
家の壁に生える苔をみた
かれらの食物は非常にわるく
精神さへも梅雨《つゆ》じみて居る。

雨のながくふる間
私は退屈な田舍にゐて
退屈な自然に漂泊してゐる
薄ちやけた幽靈のやうな影をみた。

私は貧乏を見たのです
このびたびたする雨氣の中に
ずつくり濡れたる 孤獨の 非常に厭やらしいものを見たのです。


 さびしい來歴

むくむくと肥えふとつて
白くくびれてるふしぎな球形《まり》の幻像
前へ 次へ
全55ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング