幸福があるのだらう
泥土《でいど》の砂を掘れば掘るほど
悲しみはいよいよふかく湧いてくるではないか。
春は幔幕のかげにゆらゆらとして
遠く俥にゆすられながら行つてしまつた。
どこに私らの戀人があるのだらう
ばうばうとした野原に立つて口笛をふいてみても
もう永遠に空想の娘らは來やしない。
なみだによごれためるとん[#「めるとん」に傍点]のづぼんをはいて
私は日傭人《ひようとり》のやうに歩いてゐる
ああもう希望もない 名譽もない 未來もない。
さうしてとりかへしのつかない悔恨ばかりが
野鼠のやうに走つて行つた。


 輪※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]と轉生

地獄の鬼がまはす車のやうに
冬の日はごろごろとさびしくまはつて
輪※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]の小鳥は砂原のかげに死んでしまつた。
ああ こんな陰鬱な季節がつづくあひだ
私は幻の駱駝にのつて
ふらふらとかなしげな旅行にでようとする。
どこにこんな荒寥の地方があるのだらう!
年をとつた乞食の群は
いくたりとなく隊列のあとをすぎさつてゆき
禿鷹の屍肉にむらがるやうに
きたない小蟲が燒地《やけち》の穢土《ゑど》にむ
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