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うるはしい かなしい さまざまの入りこみたる空の感情
つめたい銀いろの小鳥のなきごゑ
春がくるときのよろこびは
あらゆるひとの命をふきならす笛のひびきのやうだ。
ふるへる めづらしい野路のくさばな
おもたく雨にぬれた空氣の中にひろがるひとつの音色
なやましき女のなきごゑはそこにもきこえて
春はしつとりとふくらんでくるやうだ。
春としなれば山奧のふかい森の中でも
くされた木株の中でもうごめくみみずのやうに
私のたましひはぞくぞくとして菌《きのこ》を吹き出す
たとへば毒だけ へびだけ べにひめぢのやうなもの
かかる菌《きのこ》の類はあやしげなる色香をはなちて
ひねもすさびしげに匂つてゐる。
春がくる 春がくる
春がくるときのよろこびは あらゆるひとの命を吹きならす笛のひびきのやうだ
そこにもここにも
ぞくぞくとしてふきだす菌《きのこ》 毒だけ
また藪かげに生えてほのかに光るべにひめぢの類。
蠅の唱歌
春はどこまできたか
春はそこまできて櫻の匂ひをかぐはせた
子供たちのさけびは野に山に
はるやま見れば白い浮雲がながれてゐる。
さうして私の心はなみだをおぼえる
いつもおとなしくひと
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