りで遊んでゐる私のこころだ。
この心はさびしい
この心はわかき少年の昔より私のいのちに日影をおとした
しだいにおほきくなる孤獨の日かげ
おそろしい憂鬱の日かげはひろがる。
いま室内にひとりで坐つて
暮れてゆくたましひの日かげをみつめる
そのためいきはさびしくして
とどまる蠅のやうに力がない。
しづかに暮れてゆく春の日の夕日の中を
私のいのちは力なくさまよひあるき
私のいのちは窓の硝子にとどまりて
たよりなき子供等のすすりなく唱歌をきいた。
恐ろしく憂鬱なる
こんもりとした森の木立のなかで
いちめんに白い蝶類が飛んでゐる。
むらがる むらがりて飛びめぐる
てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ
みどりの葉のあつぼつたい隙間から
ぴか ぴか ぴか ぴかと光る そのちひさな鋭どい翼《つばさ》
いつぱいにひろがつてとびめぐる てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ てふ
ああ これはなんといふ憂鬱な幻だ
このおもたい手足 おもたい心臟
かぎりなくなやましい物質と物質との重なり
ああ これはなんといふ美しい病氣だらう。
つかれはてたる神經のなまめかしいたそがれ
前へ
次へ
全55ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング