愛をもとめる肩によりそひながら
わけても感じやすい皮膚のうへに
かるく爪先をふれ
かるく爪でひつかき
かるくしつかりと、押へつけるやうにする指のはたらき
そのぶるぶると身ぶるひをする愛のよろこび はげしく狡猾にくすぐる指
おすましで意地惡のひとさし指
卑怯で快活な小ゆびのいたづら
親指の肥え太つたうつくしさと その暴虐なる野蠻性
ああ そのすべすべと磨きあげたいつぽんの指をおしいただき
すつぽりと口にふくんでしやぶつてゐたい。いつまでたつてもしやぶつてゐたい。
その手の甲はわつぷるのふくらみで
その手の指は氷砂糖のつめたい食慾
ああ この食慾
子供のやうに意地のきたない無恥の食慾。


 群集の中を求めて歩く

私はいつも都會をもとめる
都會のにぎやかな群集の中に居るのをもとめる
群集はおほきな感情をもつた浪のやうなものだ。
どこへでも流れてゆくひとつのさかんな意志と愛欲とのぐるうぷ[#「ぐるうぷ」に傍点]だ。
ああ 春の日のたそがれどき
都會の入り混みたる建築と建築との日影をもとめ
おほきな群集の中にもまれてゆくのは樂しいことだ。
みよ この群集のながれてゆくありさまを
浪は浪の上
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