あいつらは
死よりも恐ろしい祕密だ。

おれはかんがへる
そのときまるであいつらの眼が
おれの手くびにくつついてゐたことを
おれの胴體に
のぞきめがねを仕掛けた奴らだ
おれをひつぱたく
おれの力は
馬車馬のやうにひつぱたく。

そしてだんだんと
おれは天路を巡歴した
異樣な話だが
おれはじつさい 獨身者《ひとりみ》であつた。


 龜

林あり
沼あり
蒼天あり
ひとの手には重みをかんじ
しづかに純金の龜ねむる
この光る
さびしき自然のいたみにたへ
ひとの心靈《こころ》にまさぐりしづむ
龜は蒼天のふかみにしづむ。


 白夜

夜霜まぢかくしのびきて
跫音《あのと》をぬすむ寒空《さむぞら》に
微光のうすものすぎさる感じ
ひそめるものら
遠見の柳をめぐり出でしが
ひたひたと出でしが
見よ 手に銀の兇器は冴え
闇に冴え
あきらかにしもかざされぬ
そのものの額《ひたひ》の上にかざされぬ。


 巣

竹の節はほそくなりゆき
竹の根はほそくなりゆき
竹の纖毛は地下にのびゆき
錐のごとくなりゆき
絹絲のごとくかすれゆき
けぶりのやうに消えさりゆき。

ああ髮の毛もみだれみだれし
暗い土壤に罪びと
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