あり、一人は郷土の詩人萩原恭次郎君である。
 この詩集は、詩集である以外に、私の過去の生活記念でもある故に、特に書物の序と跋とを、二人の知友に頼んだのである。

  西暦一九二四年春
    利根川に近き田舍の小都市にて[#地から3字上げ]著者
[#改ページ]

  出版に際して


 昨年の春、この詩集の稿をまとめてから、まる一年たつた今日、漸く出版する運びになつた。この一年の間に、私は住み慣れた郷土を去つて、東京に移つてきたのである。そこで偶然にもこの詩集が、私の出郷の記念として、意味深く出版されることになつた。
 郷土! いま遠く郷土を望景すれば、萬感胸に迫つてくる。かなしき郷土よ。人人は私に情《つれ》なくして、いつも白い眼でにらんでゐた。單に私が無職であり、もしくは變人であるといふ理由をもつて、あはれな詩人を嘲辱し、私の背後《うしろ》から唾《つばき》をかけた。「あすこに白痴《ばか》が歩いて行く。」さう言つて人人が舌を出した。
 少年の時から、この長い時日の間、私は環境の中に忍んでゐた。さうして世と人と自然を憎み、いつさいに叛いて行かうとする、卓拔なる超俗思想と、叛逆を好む烈しい
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