いためである。あるひとの來歴に對するのすたるぢや[#「のすたるぢや」に傍線]とも言へるだらう。

「郷土望景詩」十篇は、比較的に最近の作である。私のながく住んでゐる田舍の小都邑と、その附近の風物を詠じ、あはせて私自身の主觀をうたひこんだ。この詩風に文語體を試みたのは、いささか心に激するところがあつて、語調の烈しきを欲したのと、一にはそれが、詠嘆的の純情詩であつたからである。ともあれこの詩篇の内容とスタイルとは、私にしては分離できない事情である。
「愛憐詩篇」と「郷土望景詩」とは、創作の年代が甚だしく隔たるために、詩の情操が根本的にちがつてゐる。(したがつてまたその音律もちがつてゐる。)しかしながら共に純情風のものであり、詠嘆的文語調の詩である故に、あはせて一册の本にまとめた。私の一般的な詩風からみれば、むしろ變り種の詩集であらう。

 私の藝術を、とにかくにも理解してゐる人は可成多い。私の人物と生活とを、常に知つてゐる人も多少は居る。けれども藝術と生活とを、兩方から見てゐる知己は殆んど居ない。ただ二人の友人だけが、詩と生活の兩方から、私に親しく往來してゐた。一人は東京の詩友室生犀星君で
前へ 次へ
全20ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング