ず、感傷の人は恆に地に立ちて涙をのむ。
感傷必ずしも哀傷にあらず、憤怒も歡喜もその極に達すれば涙ながる、然れども涙なきものは感傷にあらず。
感傷なき藝術は光なき晶玉の如し、實質あれども感動なし。
女人に感傷なし、然れども感傷の良電體。
ひとびとよ、美しきひとびとよ、つねに君はせんちめんたる[#「せんちめんたる」に傍点]なれ。
昔より言ふごとく死人は白玉樓中にあり。
感傷至上の三昧は玲瓏たり、萬有にリズムを感じ、魚鳥も屏息し、金銀慟哭す。
純銀感傷の人室生犀星。
感傷の人犀星に逢へば菓子も憔悴す。
感傷は理智を拒まず、却つて必然に之を抱擁す、
感傷とは痴愚の謂にあらず、自覺せざる哲理なり、前提を忘れたる結論なり[#「前提を忘れたる結論なり」に傍点]。而して藝術と科學との相違は單に此の一點に存す。
耶蘇の素足は砂にまみれ、その手は奇蹟を生み、その言葉は感傷に震へたり。彼の説くところは道理にあらずして信仰なりき、概念にあらずして祈祷なりき。然もたれか聖書に哲學なしと言ひ得るものぞ。
理智が感情と竝行し、或は之を超越せる場合に於ては祈祷あることなし。ただ感情が理智を慴伏する
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