その言葉の終らない中に、人人は不意に足の裏から、大きな棒で突きあげられるやうな氣持がした。
 ちよつとの間、どこかで烈しく布を引きさくやうな音が聞えた。
 そして、一人殘らず、まつくらな海の底へたたき込まれた。

 かうして、不幸な騎士たちの計畫は、見事に破壞されてしまつた。彼等の美しいロマンチツクの船と一所に。とこしなへに歸らぬ海の底に。
 ほんとに彼等は氣の毒な人たちであつた。
 何故かといふに、彼等が今少しの間この恐ろしい事實、即ち彼等の船が「うづまき」の中に卷き込まれて居たことに氣が付かずに居たならば、彼等はその幸福を夢みて居る状態に於て、やすらかに眠ることができたかも知れなかつたのである。
 私が音樂を聽くとき、わけてもその高潮に達した一刹那の悦びを味ふとき、いつも思ひ出すのはこのあはれに悲しげな昔の騎士の夢物語である。
 手にとられぬ「神祕の島へ」の、悲しくやるせない冒險の夢物語である。


 二つの手紙

ある男の友に。
近來、著るしく廢頽的傾向を帶びてきた私の思想に就いて、君が賢こい注意と叱責とを與へられたことを感謝する。
これは全く惡いことだ。惡いことと言ふより
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