「愛」に白丸傍点]であるといふ眞理を、私に教へて下さつたのも先生である。たとへ電光のやうな瞬間とはいへ、先生が私のすべて[#「すべて」に傍点]を抱擁して下さつたときの歡喜は口にも筆にも述べつくせないものがある。

 先生は私のためには單なる思想上の先輩ではなくして、私の肉體の疾病にまで手をかけて下さるところの醫師である。人間の『良心』といふものは、單に思想上から生れた信念ではなくして、その人間の肉體から生れるところの一種の奇異な感情である。『良心』といふものは言葉をかへていへば、『神經』である。少なくとも私のやうな人間にとつてはさうである。『良心』は思想であり『神經』は感情であるといふやうに區別することから、驚くべき誤解が生れるのだ。先生はすべてのことを知りぬいてゐる。先生の前には人間は素裸で立たなければならない。ほんとに一人の人間を救ふためには[#「ほんとに一人の人間を救ふためには」に白丸傍点]、その人間の肉體から先に救はなければならないのだ[#「その人間の肉體から先に救はなければならないのだ」に白丸傍点]。思想なんてことは何うでもいいのだ[#「思想なんてことは何うでもいいのだ」に白
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