する報告である。私が言はなければならないこと[#「言はなければならないこと」に傍点]と言つたのは此の事である。
握つた手の感覺
四月十九日の朝、私は書齋の卓に額をうづめながらすすりなきをして居た。まるでお母さんのふところに抱かれた子供が、甘つたれてすすりなきをするときのやうな、なんともいへない SWEET の感傷が、私の總身をしびれるやうにふるはせたのである。しまひに私はおいおい聲まで出して泣きはじめた。『自分の罪が許された』さういふ感覺が限りもなく私を幸福にしたのである。
母の乳房のやうにあつたかいあるもの[#「あるもの」に傍点](それを言葉で言ひ現はすことはできない)が、私の全身を抱きかかへて、そつくりどこかの樂園へ導いてゆくやうな氣がした。私は思ひきり甘つたれて泣いてゐた。私の醜い病癖や、不愉快な神經質的の惱鬱や、厭人思想や、虚僞や、下劣な高慢や、謙遜を裝うた卑屈や、賤劣極まる利己的思想や、混亂紛雜した理智の爭鬪や、畸形な、しかも醜惡を極めた性慾の祕密や、及びそれらのものの生む内面的罪惡や、凡そ私を苦しめ、私を苛責し、私を陰鬱にするところの一切のものが懺悔された。(か
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