したものはなく、感情以外に少しでも私を教育したものはなかつた。人間のつくつた學校はどこでも私を犬のやうに追ひ出した。

 五官を極度に洗練することによつて人はさまざまの奇蹟を見ることができるやうに成る。たとへば空氣色だの、音の色彩だの、密閉した箱の中にある物品だの。
 神祕と眞理と奇蹟とは三位一體である。

 眞理とは五感の上に建てられたる第六感[#「五感の上に建てられたる第六感」に傍点]の意義である。いやしくも五感以外の方法、たとへば考察や冥想や空想によつて神祕を感觸したと稱するものがあれば、それは詐欺師であるか狂人であるかの一つである。若しどつちでもないとすれば、救ふべからざる迷信に墮したものである。ウイリアム・ブレークの徒である。

 詩とは五官及び感情の上に立つ空間の科學[#「空間の科學」に傍点]である。

 五感およびその上に建てられたる第六感以外に人間の安心して信頼すべきものは一つもない。
 天に達するの正しい路は感傷の一路である。

 私は私の驚くべき神經の Tremolo から色色な奇蹟を見る。その奇蹟が私を悲しませる。私の詩はすべて私の實感から發した『肉體の現状』に關
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