もの」に傍点]の手である。
手は突如として空間に現出する。時として壁或は樹木の幹にためいき[#「ためいき」に傍点]の如き姿を幻影する。
手は歴歴として發光する。
手はしんしんとして疾患する。
手は酸蝕されたる石英の如くにして傷みもつとも烈しくなる。
手は白き金屬のごときものを以て製造され透明性を有す。
われの手より來るところの恐怖は、しばしばその手の背後に於て幽靈をさへ感知する。
微笑したるところの幻影であり、沈默せる遠きけちえん[#「けちえん」に傍点]の顏面であることを明らかに知覺するとき我は卒倒せんとする。
我はつねに『先祖』を怖る。
危險なる新光線
疾患せる植物及び動物の脊髓より發光するところの螢光又はラジウム性放射線が、如何に我我の健康に有害なるかを想へ、斯くの如き光線は人身をして糜爛せしめ、侵蝕せしめずんば止まず。新らしき人類をして悲慘なる破滅より救助せしめんがため、科學者は新らたに發見を要す。
懺悔者の姿
懺悔するものの姿は冬に於て最も鮮明である。
暗黒の世界に於ても、彼の姿のみはくつきり[#「くつきり」に傍点]と浮彫のごとく宇宙に光つて見える。
見よ、合掌
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