色として見えるやうなものは光でない、物體である。斷じて詩ではない。

     * * * *

螢の光[#「光」に白丸傍点]は戀である。
女の美[#「美」に白丸傍点]は淫慾である。
あらゆる生物のパツシヨンは光[#「光」に白丸傍点]である。けれどもあらゆる光[#「光」に白丸傍点]が必ずしもパツシヨンではない。

聖人の輪光は肉體をはなれて見える。

パツシヨンばかりが詩ではない。
センチメンタルばかりが詩である。
光輪も聖人の怒と哀傷とによつて輝く。

足が地上を離れんとして電光[#「電光」に白丸傍点]に撃たれる。自分の肢體が金粉のやうに飛散する。

月光[#「月光」に白丸傍点]の海に盲魚が居る。

眞實は燐だ、感傷は露だ。

光は天の一方にある、空の青明を照映するために我の額は磨かれる、一心不亂に磨きあげられる。

鵞鳥は純金の卵を生む。自分の安住する世界はいつも美しい、夢のやうに不可思議で、夢のやうに美しい。


 手の幻影

白晝或は夜間に於て幻現するところの手は必ず一個である。左[#「左」に白丸傍点]である。
而してそは何ぴとにも語ることを禁ぜられるところのあるもの[#「ある
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