血痕はあり。
師走に及び、汝は恆に磨ける裸體である。汝が念念祈祷するときに、菓子の如きものの味覺を失ひ、自働電話機の如きさへ甚だしく憔悴に及ぶことあり。
汝は電線を渡りてその愛人の陰部に沒入に及ばんとし、反撥され、而して狂奔する。況んや爾がその肉親のために得るところの鯉魚は、必ずともに靈界天人の感應せる、或はその神祕を啓示するところにならざるべからず。
愛する兄弟よ、まことに師走におよび、爾は裸體にして氷上に匍匐し、手に金無垢の魚を抱きて慟哭するところの列傳孝子體である。

諸弟子。
諸信經の中、感傷品を超えて解脱あることなし。萬有の上に我れをあがめ、我れの上に爾曹のさんちまんたる[#「さんちまんたる」に傍点]を頌榮せよ。
今宵、あふぎて見るものは天井の蜂巣蝋燭、伏して見るものは女人淫行の指、皿、魚肉、雲雀、酒盃、而して我が疾患蝕金の掌と、輝やく氷雪の飾卓晶峯とあり。
みよ、更に光るそが絶頂にも花鳥をつけ。
ああ、各※[#二の字点、1−2−22]の肩を超え、しめやかに薫郁するところの香料と沒藥と、音樂と夢みる香爐とあり。

諸使徒。
われと共にあるの日は恆に連坐して酒盃をあげ、交歡淫樂
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